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大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)156号 決定 1955年6月03日

抗告人 神戸タクシー株式会社

訴訟代理人 本田由雄

代表取締役 河合拾七二

主文

原決定を取消す。

神戸地方裁判所所属執行吏藤森喜代平が、別紙目録記載の自動車に対する神戸地方裁判所姫路支部昭和二九年(ヲ)第二四五号自動車監守及保存の処分の執行に当り為した同自動車の運行を許した処分はこれを取消す。

異議申立費用及抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由は別紙のとおりである。

先づ第一点につき考ふるに原決定の如き抗告に服する決定にあつては、民事訴訟法第二百七条に依り、判決の記載要件についての同法第百九十一条が準用あつて、事実争点及理由は、これが記載を要するものと解しなければならない。然るに原決定には「当事者間の昭和二十九年(ヲ)第四一号執行方法に関する異議申立事件について申立人の申立を相当と認め左の通り決定する」とあるだけであつて、これによつては、それ等の記載があるものとは云えないから、原決定はこの点で法律違背があり取消を免れない。

而して本件記録を精査して見るに、本件執行方法の適否については、既に裁判をするに熟するものと認められるから、第二点について判断する。

抗告人は自動車に対する仮差押の執行の場合においては、その性質上、当然にその自動車の運行は許可すべきであり、又この場合自動車強制執行規則第七条第三項を準用すべきものであると主張するけれども、これは何れも当裁判所の採らない解釈である。なぜかならば、自動車に対する仮差押の執行は、その仮差押の命令を自動車登録原簿に記入するに因つてこれをするものであることは、自動車強制執行規則第十六条民事訴訟法第七百五十一条によつて明である。それは本来仮差押は、将来の強制執行の保全を目的とするものであつて、本差押とは違い、その自動車の換価による権利の実現を目的とするものではないから、換価の前提である自動車の占有の確保は必ずしも必要ではなく、単に原簿記入により債務者のこれに対する処分を阻止しておけば、それで一応こと足りるといふところから不動産に対する仮差押の執行と同様の手続によらしめたものなのである。従て自動車に対する仮差押の場合には、本差押の場合のように執行吏に対する自動車の引渡し、並にその後の諸般の措置(例えば運行を許す等)は、原則としてその必要をみないのであり、又本差押に関する規定である自動車強制執行規則第七条第三項はその準用の余地もないのである。

もとより自動車は、それ自体不動産とは性質も違うので、自動車に対する仮差押の執行の場合には、船舶に対するそれにならつて、監守及保存の処分が認められておるのであるから、その処分として債権者の委任する執行吏に、その自動車の占有保管を命ずることもあるのであろうが、かかる場合において、その監守及保存の処分が不当であり不法であるといふならば、それについて仮差押裁判所に対し異議の申立をして、これが救済を求むればよいのであつて、その処分の執行の受任執行吏に対し、運行を許すが如き処分を求め得べきものではないからである。

然らば本件において、別紙仮差押自動車に対し、監守及保存の処分の執行を受任した執行吏藤森喜代平が、その自動車の運行を許した執行処分は違法であるからこれは取消さるべきものである。

仍て民事訴訟法第四百十四条、第三百八十七条、第九十六条、第八十九条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三吉信隆 判事 藤田弥太郎 判事 小野田常太郎)

(別紙目録は省略する。)

抗告の理由

一、神戸地方裁判所姫路支部は昭和二十九年(ヲ)第四一号事件について抗告の趣旨記載の通りの決定をした。

二、右決定は先づ理由を示さずして取消決定して居るものであつて理由のない裁判はあり得ないのでありこの点に於いて取消を免れないものである。

三、恐らく自動車強制執行規則第七条第三項は仮差押に準備されて居ないから運行の許可は不当であるとの理由に基くものであろうが之れは本差押の場合数十日の内に競売となる場合に於いてさえ運行を許す法の精神であるから、一、債権の確定して居ないもの、二、債権額五十二万円に対し自動車二輛の価格二百万円にも該当するもの、三、担当運転手が職業を奪はれ日々の生活にも困るもの、四、運行せずとも相当価格の低下を来し運行するも一年以上にても相当の価格を有するもの、の理由に依り仮差押の場合には運行は右第七条第三項の規定を俟たず当然運行の許可を受くべきもの仮りに運行について条文上の根拠を必要とせば仮差押の場合にも右第七条第三項は当然準用すべきものである事は法律上の当然の勿論解釈であつて原決定は不当であるから取消を免れないものである。

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